麻酔手術の絶食前に経口補水液(OS-1)をたくさん飲んでおくと、
術後の気分の悪さを軽減したり、
術後の体調回復を助けたりする
という話は、整形垢の中ではけっこう言われています。
こういう情報を見ると「効果がある理由」を知りたくなってしまう性分なので調べてみたところ、得られた情報と噂では若干ズレているように感じたのでそれをまとめます。
目次
「麻酔 OS-1」などのキーワードで検索をすると…
まず、麻酔と経口補水液との関係を調べるために「麻酔、手術、OS-1、経口補水液」などのキーワードを組み合わせて検索をします。
そして上位にヒットした記事を見て回ると、「 手術前の2~3時間前まで に経口補水液を飲む」という内容になっています。
しかし整形垢さんが術前にOS-1を飲むタイミングは「絶飲食に入る手術 "前夜"」のイメージが強いです。
そして、記事の中には「OS-1は吸収スピードが速い」という記述も目にします。
これは…
"前夜" に飲んでも意味がない感じ…?
という疑問が生まれました。
気になるのでさらに調べていきます。
手術日の前日から "飲み物も" 禁止するのは古い考え
調べていくと、近年で術前の飲食に関する方針が変化していたことが分かりました。
手術前に絶飲食をする理由
まず、「そもそも 手術前に絶飲食をする理由は何なのか」についてお話します。
その理由は、「麻酔を導入する時に、胃の内容物を嘔吐したり 誤嚥(ごえん:喉頭と気管に入ってしまうこと)すると、さまざまな合併症が起こり得るので、それを回避するため」です。
合併症の例
- 胃酸の誤嚥によって肺が化学的に損傷する
- 誤嚥によっておこる肺炎
- 食物の塊が物理的に詰まってしまう
- 急性呼吸促迫症候群
なので胃を空にするために絶飲食をします。
長時間 絶飲食するデメリット
しかし、長時間(従来の8時間以上)の絶飲食にはデメリットもありました。
デメリット
- 患者に口渇感や空腹感などの精神的ストレスがかかる
- 脱水や脱水による合併症、低血糖のリスク
- など…
そこで脱水や栄養不足に関しては、点滴を投与して対策してきたようです。
清澄水(せいちょうすい)なら麻酔導入2時間前まで可能
しかし、近年の研究で "絶飲水" の時間を短縮しても安全に管理できることが分かってきました。
欧米では、先駆けて術前絶飲食に関するガイドラインが作成され,術前絶飲食時間の短縮が推奨されてきました。
そして日本でも、2012年に日本麻酔科学会によって「術前絶飲食ガイドライン」が作成され、絶飲食時間の短縮が勧められました。
ガイドラインでは以下のように書かれています。
ガイドライン(一部)
清澄水の摂取は年齢を問わず麻酔導入 2 時間前まで安全である(摂取量も特に制限なし)
清澄水に含むもの:水,茶,アップルあるいはオレンジジュース(果肉を含まない果物ジュース),コーヒー(ミルクを含まない)
注意が必要な飲み物:浸透圧や熱量が高い飲料,アミノ酸含有飲料
(胃排泄時間が遅くなる可能性があるため)
推奨できない飲み物:脂肪含有飲料,食物繊維含有飲料,アルコール
術前絶飲食ガイドライン:https://anesth.or.jp/files/pdf/kangae2.pdf
OS-1以外にも飲めるものはあるんですね
メリットが多い
短時間絶飲水のメリットは
- 長時間の絶飲水による患者のストレスをなくす
- 脱水症や低血糖の回避
の他にもあります。
その他のメリット
- 点滴の苦痛がなくなる・行動制限がない
- 点滴による医療事故・合併症を回避できる
- 看護師の作業が減る
経口補水療法(ORT)とは?
手術と経口補水液について調べると「経口補水療法(ORT)」というキーワードが出てきます。
これは「手術前に経口補水液を飲むこと」を指しているわけではありません。手術前の水分管理とは別の話です。
「経口補水療法(ORT)」とは脱水症状からの回復を助けるものです。
ORTとは?
- 脱水症に対する治療法
- 塩分、糖分をバランスよく配合した水分を摂取する、というだけのもの
- 水に 塩分、糖分をバランスよく配合すると、すばやく体に吸収されることを利用している
- 点滴療法と同様の効果がある
- 発展途上国でのコレラによる下痢・脱水症の治療法として注目を集めた
(医療設備の整備が遅れていたり、医師が少ないなどの理由で点滴の実施が困難な環境だったため、飲むだけでいい治療法が重宝されたというわけ)
経口補水液は、水、塩、糖で作られていて
脱水症状をすばやく改善できる飲料ということ
なぜ術前に「水」ではなく「経口補水液(OS-1)」なのか?
日本麻酔科学会の「術前絶飲食ガイドライン」では、手術2時間前までに飲める水分に「経口補水液」という指定はありません。
清澄水
- 水
- 茶
- アップルあるいはオレンジジュース(果肉を含まない果物ジュース)
- コーヒー(ミルクを含まない)
では、なぜ「手術前の水分補給」と「経口補水療法(ORT)」が結びついているのでしょうか?
私が考えるに以下の理由があるのかな、と思います。
OS-1である理由
- 水分の効率的な吸収には塩分と糖分が必要だが、食事ができない & 飲めるものが限られているため、バランスの良いOS-1が適している?
- 飲み物の選択肢を広くすると、適していない飲み物を飲んでしまう患者が現れるかもしれないのでOS-1で指定しておくのが安全?
- 「今まで行っていた術前の点滴が置き換わるもの」なので、点滴と同様の効果がある「経口補水療法」が適任?
※ 筆者の感想です
美容外科"以外"では、OS-1を配布して患者に飲ませているところがそこそこある
ツイッターで「手術 OS-1」と検索をすると、整形ではない手術のツイートも出てきます。
そういったツイートでは、病院から「手術までに飲んでください、と言われて飲んでいる・飲んだ」という内容が多い印象を受けます。
つまり、ガイドラインに従って術前2,3時間までにOS-1を飲んでもらうように変えた病院がそこそこあるようです。
しかし整形垢さんのツイートでは、「OS-1を持参して、手術前日の今 飲んでいる」というツイートが多い印象です。
「OS-1が全身麻酔後の悪心(吐き気)を予防する」という内容は発見できず
ちなみに、「全身麻酔、悪心、OS-1、経口補水液」を組み合わせたキーワードでGoogle検索をしても、「OS-1が全身麻酔後の悪心(吐き気)を予防する」という内容を発見することはできませんでした。
もしかしたら、体な十分に水分があることで体調を良好に保ちやすくなったりするのかもしれませんが、一般的な話ではないようです。
私は全身麻酔を2回したことがあり、
どちらも悪心がつらかったので改善する方法が欲しい…。
(ちなみに1回は手術前夜にOS-1を飲んで臨んだ)
OS-1とスポーツドリンクの違い
ちなみに、「OS-1」と「スポーツドリンク」の違いは「電解質(塩)濃度」と「糖濃度」の違いです。
違い
OS-1:スポーツドリンクと比べて塩濃度が高くて、糖濃度が低い
スポーツドリンク:OS-1と比べて塩濃度が低くて、糖濃度が高い
OS-1は水分がすばやく吸収される配合になっているので、脱水症の時に飲むのに適しています。
スポーツドリンクは、糖分が多く配合されていてエネルギー補給ができるので、エネルギーを多く消費する場面(スポーツなど)に適しています。
まとめ:「麻酔手術の前夜にOS-1を飲むとよい」整形垢で言われている噂について調べてみた
ということで、私が調べた結果は以下のようになりました。
調査結果
- 「経口補水液」は、脱水症状をすばやく回復させるもの
- 前夜から絶飲食にしている病院では手術前に点滴をすると思われるので、脱水対策は心配しなくて良さそう
- Google検索で「OS-1が全身麻酔後の悪心(吐き気)を予防する」という話は見つけられず
参考サイト